【2021年9月2日 11:38 AM更新】
I先生の思い出
予約の患者さんを優先して診察する診療スタイルは今でこそ珍しくなくなりました。
でも、50年ほど前には予約制の歯科医院はほとんど無かったそうです。
待合室に人があふれて、来院した順番に名前が呼ばれるのを待ち続けるのが当たり前でした。
1970年代に新潟市で初めて予約制を導入されたのが、歯周病治療の権威であるI先生です。
I先生は海外の歯周病学会にも積極的に参加されて、最先端の智識を後輩に惜しみなく教えてくださる方でした。
特に、喫煙が歯周病の重症化に関わる危険因子であることに早くから警鐘を鳴らされていたのです。
今から30〜40年前の時代ですので歯科医師の喫煙率は高く、タバコの害についてI先生がお伝えになると周囲の先生方はもじもじして顔を見合わせていたとのこと。
運良く(?)わたしは喫煙の習慣がなかったので、I先生のお叱りを受けることなく勉強させていただけました。
歯周病の病因論や病型分類、進行度を正確に評価するための検査値の読み方等、エビデンスに基づいた情報をいかに臨床に活かして患者さんに還元するのか、教えていただいて感謝しています。
一緒に学べる期間は短かったのですが有り難い経験でした。
主治医は居なくなれない?
I先生とお会いする機会がないまま3年ほど経って、突然わたしのクリニックにI先生が来院されました。
3年間、ガンで闘病されていたとのことで、体力の限界を感じて閉院を決意されたのです。
I歯科医院には遠方からメインテナンスのために通院し続けている患者さんが大勢いらっしゃいました。
そのため、松田歯科医院の近くに住まれている方を紹介させて欲しいと仰るのです。
患者さんをご紹介いただくのはありがたいお話で光栄に感じました。
でも、歯周病の権威であるI先生の患者さんを引き継ぐ自信は、正直言ってありませんでした。
しかし、同じ開業医としてI先生のお気持ちは痛いほどわかります。
微力ですが、出来る限りの対応をさせていただきます、とお返事しました。
I歯科医院が閉院して数カ月経つと、ご紹介いただいた患者さんが一人二人と来院されます。
皆さん、例外なく非常に不安気で「これから、どうしたら良いのでしょう?」と尋ねられました。
長い方は、30年以上も同じ歯科医院に通い続けI先生のご診察を受けていたわけです。
心配しないでください、というのが無理な話です。
わたしもI先生が実際に治療されていた様子を拝見したことはなかったので、これまでと変わらない治療を提供しますとは言えるはずもありません。
幸い、ほとんどの患者さんには当院の診療スタイルを受け入れていただき、メインテナンスを継続されています。
この件で最も強く感じたのは、かかりつけ医院が突然なくなって途方に暮れるような心細い思いを、自分の患者さんには味あわせたくないという気持ちでした。
そこで、下記の二点を実現するために行動を続けています。
・松田歯科医院が閉院せざるを得なくなった際に、メインテナンスの患者さんを受け入れてもらえる医院を近隣で探しておく
・院長が診療できない状況になっても、メインテナンスは問題なく継続できる体制を構築する
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