【2026年10月4日 1:55 PM更新】

はじめに
新潟市西区で松田歯科医院を開業している松田拓己です。
先生に、ひとつ質問させてください。
先生の医院に一度来院されて、その後通院されなくなった患者さん。
その方々は、なぜ来なくなったと思いますか?
「痛かったのかな」
「予約で来たのに待たせてしまったな」
「あの日の説明が無愛想だったかもしれない」
「治療費が高いと感じたのかな」
自分の診療のどこかに原因があったのでは、
と真面目な先生ほど考えがちです。
でも今日、その思い込みを、 一度ほどいてみてほしいんです。
Ⅰ. 自分が「行かなくなった店」を思い出してみる
まず、先生自身をモデルにして
考えてみましょう。
先生が、 最近通わなくなったお店を、 思い浮かべてみてください。
・ランチでよく行っていたお店
・髪を切りに行っていた美容院
・前はちょくちょく寄っていたコンビニ
その店に通うのをやめた理由を、はっきり説明できますか?
ほとんどの場合、 明確な不満があったわけではないと思います。
⇒そのお店の存在を、ふと忘れた
⇒用事があったときに、思い出さなかった
⇒気がついたら、別の店に流れていた
これらが、人が店から離れる主な理由なのです。
Ⅱ. 歯科医院でも、原理はまったく同じ
患者さんが先生の医院に来なくなる理由も、 実は同じです。
明確な不満ではなく、「忘れてしまった」から。
これが、ほとんどのケースに当てはまるはずです。
特に、定期健診・メンテナンスのように
痛みや脱離といった自覚症状を伴わない場合は、
さらに忘れられやすいでしょう。
「次回は6ヶ月後くらいですかね」 と
曖昧に見送られた患者さんの多くは、
悪意なく、ただ忘れ、 気づけば1年、2年と時間が経っていきます。
先生の診療が悪かったのではありません。
ただ、患者さんの記憶から医院が消えてしまっただけです。
この視点を持てるかどうかで、
先生の臨床と医院運営の両方が大きく変わります。
Ⅲ. リコール率を「正しく」測ることから始まる
特に患者さんから忘れられやすい
メンテナンスについて考えてみましょう。
リコール率(メンテナンス継続率)の正しい計算式はこれです。
リコール率 = 実際に来院した患者数 ÷ メンテナンスが必要な患者数
一方で、こう計算している医院が意外と多いのです。
❌ リコール率 = 実際に来院した患者数 ÷ リコールはがきを送った患者数
後者の式だと、 「来てくれそうな人にだけ、はがきを送る」運用になり、 見かけ上のリコール率は80〜90%と立派な数字になります。
でも、 メンテナンスが必要な患者さん全員をカバーできていないので、 実態はまったく違う。 医院の増患にもつながりません。
勤務医の先生は、ぜひ勤務先で聞いてみてください。 「うちの医院は、分母を何にしていますか?」
その答えが、医院の”現在地”です。
Ⅳ. 「リコールの時期を勝手に延ばされる」問題の正体
リコール率アップのセミナーを開くと、 必ず定番のように出てくる悩みがあります。
「患者さんが、リコールの時期を勝手に延ばしてしまうんです」
これ、若手の先生の中にも、 心当たりがある方は多いのではないでしょうか。
実はこの悩みの根っこは、 患者さん側にはありません。
医院側が、はっきりと時期を指定できていない。
「次はまたお時間のあるときに」 「3ヶ月くらいしたら、よろしければ…」
嫌われたくない、 押し付けたくない、 そんな優しさが、曖昧な見送りを生みます。
でも、その曖昧さが、 結果として患者さんのお口の健康を損なう結果になる。
かかりつけ歯科医院の義務は、はっきりと伝えること。
「3ヶ月後の○月○日、同じお時間でお取りしておきますね」 と、具体的な日時まで決めて帰っていただく。
若手のうちから、 このひと言を言える歯科医師であってほしいと思います。
Ⅴ. ザイオンス効果 — 短い間隔が、信頼を育てる
「でも、3ヶ月って短すぎませんか?」 と感じる若手の先生もいるかもしれません。
心理学に ザイオンス効果(単純接触効果) という概念があります。
人は、繰り返し顔を合わせることで、好感度と信頼感が高まる。 1回あたりの接触時間の長さよりも、”会う頻度” のほうが影響が大きい。
これは診療の現場でも、まったく同じです。
- 6ヶ月に1回しか会わない医院
- 3ヶ月に1回会う医院
- 毎月会う医院
リコール率が高くなり、 患者さんにとって「かかりつけ」としての存在感が強くなるのは、 後者ほどです。
忘れられる前に、また会う。 その頻度こそが、医院の記憶を患者さんの中に根づかせます。
リコール間隔の短縮は、 医院側の都合ではなく、 患者さんの記憶の仕組みに寄り添った、 極めて合理的な設計なんです。
Ⅵ. 勤務医の今、できる3つのこと
① 「来なくなった患者さん」を自分のせいにしすぎない
もちろん、診療の質を磨く努力は続けてください。 でも、来院が途切れた患者さん全員を 自分の未熟さに結びつけると、心が持ちません。
原因の多くは、不満ではなく忘却。
この冷静な認識が、若手の先生を守ります。
② 勤務先のリコール率の「分母」を聞いてみる
希望者だけで計算しているのか、 メンテナンスが必要な全員で計算しているのか。 聞くこと自体が、経営者視点の第一歩です。
③ 1人の患者さんに、具体的な日時で次回予約を提案してみる
明日の診療で、 「3ヶ月後の○月○日、同じ時間はいかがですか?」 と、はっきり提案してみてください。
患者さんは、嫌がりません。 むしろ、「ちゃんと見てくれている」と感じてくれます。
Ⅶ. 締めくくりに
患者さんが通わなくなる本当の理由は、 不満ではなく、忘却。
この一点を腹に落とすだけで、 若手の先生の臨床は、驚くほど軽くなります。
自分を責める時間を、 患者さんに次回を具体的に伝える時間に変える。
曖昧な見送りを、 「3ヶ月後の○月○日」という約束に変える。
そして忘れられる前に、また笑顔でお会いする。
その小さな積み重ねこそが、 3年後、5年後、10年後に 「あの先生のところに通っていてよかった」と 患者さんに言っていただける医院をつくります。
勤務医の今から、 一人の患者さんの次回予約の取り方を、 意識的に変えてみてください。
その一歩が、 先生の10年後の臨床観を、 確実に変えていきます
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