【2026年7月26日 9:58 AM更新】
〜30年の診療から見えてきたもの〜
新潟市西区で松田歯科医院を開業したのが1997年。
気がつけば、もうすぐ30年になります。
その間、たくさんの新しい治療技術が生まれ、
インプラント、審美歯科、マウスピース矯正と、
歯科医療の選択肢は驚くほど広がりました。
けれど、 30年間ずっと通い続けてくださっている
患者さんの顔を思い浮かべたとき、
私が真っ先に思うのは、
最先端の術式でも、 高価な自費治療でもありません。
「今日も○○さんが、笑顔で来てくださった」
ただ、それだけです。
予防のために通い続けてくださる患者さんが
自然と増えていく歯科医院には、
どんな共通点があるのか?
30年の診療のなかで見えてきたものを、
若手の先生方に向けて、率直にお伝えしていきたいと思います。
Ⅰ. 「新患が来ているのに、なぜかしんどい」という声
若手の院長先生からご相談を受けるとき、 一番よく聞くのが、こんな悩みです。
開業1年未満で、月間新患50名超。レセプト400枚超。 数字だけ見れば、大成功。
でも、その先生の表情は、なぜか晴れないんです。
理由を聞いてみると、こういう内訳が見えてきます。
| 指標 | 実績 |
|---|---|
| 月間新患数 | 50名超 |
| レセプト枚数 | 400枚超 |
| 治療中断率 | 約80% |
| メンテナンス移行率 | 50%未満 |
つまり、 入口から入ってきた患者さんが、 バケツの底が抜けたみたいに漏れていっている状態です。
新患を集めるゲームには勝っているのに、 通い続けてもらうゲームには負けている。
これでは、 院長先生もスタッフさんも、 永遠に疲弊し続けるだけです。 dh-club.net
Ⅱ. キャンセル率10%が意味すること
歯科医院のキャンセル率は、業界平均で約10%と言われています。
「10%くらいなら、まあ許容範囲かな」 と思われるかもしれません。
でも、1日40名来院する医院で計算すると、こうなります。
- 1日あたり: 4枠の空白
- 1ヶ月あたり: 約90枠の空白
- 換算値: 月間で約2診療日分、誰も来ない日がある
準備した術式、 用意した器材、 配置したスタッフ、 すべての固定コストが回収されないまま蒸発している状態です。
そしてもっと大切なのは、 その空いた枠に、本当は来るべき別の患者さんの予約が入ったかもしれない、 ということです。
キャンセルは、 経営の問題であると同時に、 地域医療の機会損失でもあるんですね。
Ⅲ. キャンセル対策の3ステップ
長年の診療のなかで、 キャンセル率を減らすには順番があると気づきました。
Step 1. 患者さんごとにキャンセル履歴を記録する 医院全体の平均ではなく、「田中さん個人のキャンセル率」を可視化する。
Step 2. 予約を守る人と守らない人で、予約の取り方を変える これは差別ではなく、限られた診療リソースを公平に配分する判断です。
Step 3. 院内ルールを明文化する 「院長も破ることができないルール」として運用する。
この3つを、順番どおりに実装していくことが大切です。 一つ飛ばすと、必ずどこかで破綻します。 dh-club.net
Ⅳ. 応召義務との向き合い方
真面目な若手ドクターほど、 こんな質問をされます。
「キャンセル常連の方の予約を断るのは、応召義務違反ではないですか?」
歯科医師法第19条は、 確かに大切な条文です。
しかし整理すべきポイントが3つあります。
① 「診療拒否」と「予約枠の調整」は、法的に別の話 予約日時を工夫することは、診療拒否ではありません。
② 予約制医療機関における合理的なルールは、正当な事由に含まれ得る 他の患者さんの診療機会を守るための運用制限は、正当性があります。
③ 自費診療のキャンセル料設定は、民事契約上有効 事前告知と同意があれば、契約自由の原則で認められます。
応召義務を過度に拡張解釈して経営を破綻させることは、 かえって地域医療を損なうリスクになる。 このことは、若手のうちから知っておいてほしいと思います。
Ⅴ. 3年継続来院率という指標
「予防に通い続けてもらえる医院」を目指すなら、 追いかけるべき指標はシンプルです。
3年後、何割の患者さんが継続来院してくださっているか。
理由は3つあります。
- 修復物の予後が臨床的に評価できるのは、最低3年経過してから
- 歯周基本治療後のメンテナンスが定着する期間が3年
- 開業3年目以降のリコール継続率が、医院の真の実力を映す
新患数は、 広告予算をかければある程度動かせます。 でも3年継続来院率は、 医院の日々の営みそのものが積み上がって初めて生まれる数字です。
Ⅵ. 待合時間15分の壁
行動心理学の研究では、 「約束時間に対して不快感が発生する待機時間の閾値は約15分」 とされています。
予約時刻を守ることは、 接遇の問題であると同時に、 再来院率に直接影響する定量指標なんです。
うちの医院では、 待合室に予約に関するメッセージを掲示しています。 「予約を守ってくださる方を大切にします」 と、はっきり書いてある。
これは、 患者さんへの約束であると同時に、 私自身とスタッフへの約束でもあります。
Ⅶ. 若手歯科医師への提言
技術の研鑽は、一生続きます。 でも、その技術を患者さんに届け続ける仕組みがなければ、 どれほど優れた術式も、社会には実装されません。
第一に、経営指標を「新患数」ではなく「治療完遂率」「3年継続来院率」に置くこと。
第二に、キャンセル・マネジメントを感情論ではなく、データと院内規程で運用すること。
第三に、応召義務を正しく理解し、合法的かつ倫理的な運用範囲で経営判断を行うこと。
この3つが、 予防に通い続けてもらえる医院をつくる、 静かで地味な、けれど確かな条件です。 dh-club.net
Ⅷ. 締めくくりに 〜数字の向こう側にあるもの〜
ここまで、 キャンセル率、 リコール継続率、 KPIと、 数字の話をたくさんしてきました。
でも、30年近く診療を続けてきた私が、 若手ドクターの皆様に最後にお伝えしたいのは、 数字の向こう側にある、たったひとつの感性です。
それは、
「あの患者さん、最近来てないな」 と気にかけられる感性。
これに尽きます。
キャンセル率のグラフを眺めることも、 リコール継続率のダッシュボードを分析することも、 すべては、この一言に集約されるためにあります。
数字は、 患者さんの顔を思い出すための”きっかけ”に過ぎません。
田中さんが最近来ていない。 なぜだろう。 お仕事が忙しいのか。 体調を崩されたのか。 それとも、 前回の治療で何か不快な思いをさせてしまったのか。
そう考えて、 カルテを開き、 衛生士さんと話し、 必要ならお電話を差し上げる。
この一連の営みができる歯科医師こそが、 3年、5年、10年、 そして30年先まで、 地域に必要とされ続ける存在になります。
派手なマーケティングよりも、 最新の術式よりも、 経営セミナーの華やかなノウハウよりも、
「あの患者さん、最近来てないな」
この一言を、日々の診療のなかで自然に口にできるかどうか。
そこに、 歯科医師としての本質と、 医院経営の持続可能性の、 すべてが宿っていると、 私は確信しています。
若手ドクターの皆様が、 この感性を大切に育てながら、 それぞれの地域で 長く愛される医院を築いていかれることを、 心より願っております。
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