予防歯科は定着していますか?


【2026年8月4日 3:13 PM更新】


〜若手歯科医師のための”数字で医院を診る”技術〜

はじめに

新潟市西区で松田歯科医院を開業して、まもなく30年。

若手の先生方とお話をしていると、 ほとんどの方が、口を揃えてこう言われます。

「うちも、予防歯科に力を入れています」 「メンテナンス、大事にしています」 「リコールで通ってくださる患者さん、多いですよ」

素晴らしいことです。 30年前と比べれば、 予防歯科という言葉は、 歯科医療の世界に完全に浸透しました。

でも、 一つだけ、質問させてください。

先生の医院で、予防歯科は本当に”定着”していますか?

“力を入れている”と”定着している”は、 似ているようで、まったく別の話です。

そしてこの違いを見分ける方法は、 たった一つしかありません。

数字で確かめること。

このブログでは、 予防歯科が本当に医院に根を下ろしているかを判断するための、 シンプルで、しかし本質的な”ものさし”についてお話しします。


Ⅰ. 「定着している」とは、どういう状態か

まず言葉の定義から始めましょう。

私が考える”予防歯科が定着している医院”とは、 以下の3つを満たす医院です。

① 治療を完了した患者さんの大半が、メンテナンスに移行している ② その方々が、リコール間隔どおりに継続来院してくださっている ③ 3年、5年、10年と、長期にわたって関係が続いている

この3つが揃って初めて、 予防歯科は”看板”ではなく”実態”になります。

逆に言えば、 どれか一つでも欠けていれば、 それは”予防歯科をやろうとしている医院”であって、 “定着している医院”ではないんです。


Ⅱ. 「感覚」と「実態」のあいだにあるもの

若手ドクターの多くが、 医院の予防歯科の状態をこう表現します。

「最近、リコールで来てくださる方が増えてきた気がします」 「メンテナンスへの移行、まあまあうまくいってると思います」 「なんとなく、中断される患者さんが減ってきた印象です」

すべて、“気がする” “印象” “思う”

これ、臨床の場面ではあり得ないことですよね。

歯周検査で、 「なんとなくポケット深めな気がします」 と診断する先生はいません。 必ずプローブで測って、 数値で記録する。

臨床では当たり前にやっていることを、 経営や予防歯科の定着度を測る場面では、 なぜか感覚で判断してしまう。

これが、 若手ドクターが最初にぶつかる**”予防歯科定着の壁”** です。


Ⅲ. 予防歯科の定着度を測る3つの指標

予防歯科がどこまで根を下ろしているかは、 以下の3つの数字で診断できます。

① 治療完遂率 初診で来られた患者さんが、途中で消えずに治療を完了する割合。

② メンテナンス移行率 治療完了後、メンテナンスに移行する患者さんの割合。

③ リコール率 メンテナンス対象者のうち、実際にリコール来院される方の割合。

この3つは、じょうご(ファネル)構造になっています。

初診 → 治療完遂 → メンテナンス移行 → リコール定着

若手ドクターの多くは新患数ばかりに目が向きがちですが、 この4段階のどこかで数字が急激に落ちている医院は、 どれだけ新患を集めても、 予防歯科は決して定着しません。

バケツの底が抜けたまま、 水を注ぎ続けているのと同じです。


Ⅳ. 経営相談で必ず出してもらう”2つの数字”

若手の先生から経営相談を受けるとき、 私がいつも最初にお願いしているワークがあります。

「直近3ヶ月分の”ある2つの数字”を出してきてください」

その2つとは、これです。

① メンテナンス対象者の人数 過去に治療を完了し、リコール対象になっている患者さんの総数。

② 実際にリコールで来院した患者数 そのうち、直近3ヶ月で実際に来院された方の人数。

そしてこの2つから、 以下の式でリコール率を算出します。

リコール率 =(実際に来院した患者数)÷(メンテナンス対象者の人数)

たったこれだけ。 電卓ひとつでできる計算です。

でも、 これを正確に把握している医院は、 本当に少ないんです。

そして、 実際に計算してみた院長先生の多くが、 こう口にされます。

「思っていた数字と、全然違いました」

この瞬間こそが、 “予防歯科は定着している”という思い込みが崩れ、 “定着させていく”という本当の取り組みが始まる瞬間なんです。 dh-club.net


Ⅴ. なぜ”数字で確かめる”ことが定着への第一歩なのか

理由は3つあります。

5-1. “定着している”の定義が明確になる

「うちは予防歯科に力を入れている」 という表現には、明確な基準がありません。

でも、 「うちのリコール率は72%です」 と言えば、 医院の状態が誰にでも同じように伝わります。

数字は、”定着”という抽象的な言葉に輪郭を与える んです。

5-2. どこで漏れているかがわかる

リコール率が低いとき、 その原因は複数考えられます。

  • 治療完了時に、メンテナンスの必要性が伝わっていない?
  • リコールハガキ・SMSが届いていない?
  • 予約の取り方に問題がある?
  • 前回の治療で何か不快な思いをさせてしまった?

数字を追いかけることで、 “じょうごのどこで漏れているか”が見えてくる。

数字は、”次の問い”を生む装置 なんです。

5-3. スタッフとの共通言語になる

「もっと予防に力を入れよう」 という抽象的な号令では、 スタッフさんは動けません。

でも、 「今月のリコール率は58%。目標は70%。あと12ポイント上げるために何ができるか」 と数字で語れば、 全員が同じ方向を向けるようになります。

予防歯科は、 院長一人が”力を入れる”だけでは絶対に定着しません。 医院全体で共通の数字を追いかけて、初めて根を下ろします。


Ⅵ. 予防歯科を定着させる3ステップ

数字を把握したら、 次は行動です。

Step 1. 数字を可視化する(0〜1ヶ月)

まずは電子カルテやレセコンから、 メンテナンス対象者リストを抽出する。 そして毎月、リコール率を計算する習慣をつくる。

これができるかどうかが、 “看板の予防歯科”から”実態のある予防歯科”へと変わる分水嶺です。

Step 2. スタッフと共有する(1〜3ヶ月)

朝礼やミーティングで、 リコール率を全員で確認する。

数字を”院長だけが持つもの”にしないことが、 組織として動くための第一歩です。

Step 3. 改善策を回す(3〜12ヶ月)

  • リコールハガキ・SMSの見直し
  • 予約の取り方の変更
  • 待合室での予防メッセージ掲示
  • 衛生士さんによる次回予約の丁寧な提案

数字が上がる要因を、 仮説→実行→検証で回していく。

これが、 臨床のPDCAと全く同じ構造です。


Ⅶ. 勤務医のうちに身につけたい”定着させる目”

多くの若手ドクターは、 「経営の勉強は、開業してから」 と考えがちです。

でも、私は逆だと思っています。

勤務医のうちに、”予防歯科が定着しているかを見抜く目”を養う。

これが、 将来開業したときや、 ご実家の医院を継承したときに、 決定的な差になります。

勤務先の医院で、 以下のような問いを立ててみてください。

  • この医院のリコール率は、どのくらいだろう?
  • メンテナンス移行率は?
  • 3ヶ月前に治療完了した患者さんのうち、今も来院されているのは何割?

もちろん、 勝手に数字を触ることはできません。 でも、 「そういう視点で医院を見る」 という習慣そのものが、 若手ドクターの経営リテラシーを育てていきます。


Ⅷ. 数字は”冷たいもの”ではない

若手ドクターと話していると、 時々こういう反応があります。

「数字で管理するって、なんだか患者さんを人として扱っていないみたいで、抵抗があります」

気持ちは、よくわかります。

でも、実は逆なんです。

リコール率を正確に把握しているということは、 “来てくださっている患者さん一人ひとりを見失っていない” ということでもあります。

医院全体の数字を把握していない先生は、 実は、 個々の患者さんの動向も見えていない。

数字は、 患者さん一人ひとりの顔を思い出すための”地図”なんです。

そして、 その地図を持っている医院にこそ、 予防歯科は静かに、深く、定着していきます。


Ⅸ. 締めくくりに

このブログで何度もお伝えしていることですが、 最後にもう一度だけ繰り返させてください。

歯科医院経営、 そして予防歯科定着の本質は、

「あの患者さん、最近来てないな」 と気にかけられる感性。

これに尽きます。

でも、 その感性を発揮するためには、 “誰が来ていないのか”を把握するための数字が必要です。

感覚だけでは、 何百人、何千人という患者さんの動向を、 一人の頭では追いきれません。

数字で全体を見て、 そこから一人ひとりの顔を思い出す。

この往復運動ができる歯科医院にこそ、 予防歯科は本当の意味で”定着”していきます。

そしてそのような医院は、 3年、5年、10年、そして30年先まで、 地域から必要とされ続けます。

若手ドクターの皆様が、 勤務医のうちから “予防歯科が定着しているかを見抜く目”を養い、 そして数字の向こう側にある 患者さん一人ひとりの物語を大切にできる、 そんな臨床家に育っていかれることを、 心より願っております。

もう一度お聞きします。 先生の医院で、予防歯科は本当に”定着”していますか?





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